言語コンシェルジュ

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音読

音読は、テキストを読み上げる極めてシンプルな学習方法である。ここではシャドーイング(4.1)の練習の最後のステップで行うものについて取り上げる。

 音読は通訳者に限らず、第二言語学習者一般に広く用いられる学習法であり、第二言語習得だけでなく、母国語の学習にも効果的であるとされ、広く支持されている。(門田、2007)英語学習における音読の目的はリーディングの基本的な語彙処理プロセスの自動化をすることである。

 まず音読のプロセスには以下の2つがある。

①単語認知 (word recognition)

②音韻符号化(phonological coding)

①単語認知は語彙アクセスとも呼ばれ、長期記憶の中にあるとされるメンタルレキシコン(脳内の辞書)を引いて、どの単語が使われているか認知しようとする語彙処理のプロセスである。一方で、②音韻符号化とは、①で単語を知覚しそのスペリングを認知した後、一旦それを心の中で音声化(=音韻符号化)するプロセスである。(門田、2007)音読はこの①、②を繰り返すことで、語彙とメンタルレキシコンの結びつき、そして文字と発音の結びつきを強化する。

 そしてリーディングは以下の2つのプロセスに分けられる。

Reading (読み)=Decoding(*ディコーディング)✖Comprehension(理解)

🌟*このディコーディングに①単語認知や②音韻符号化といった語彙処理にまつわる下位プロセスが含まれる。このプロセスが自動化することによって、注意資源を意味理解に回すことができるようになる。単語認知と音韻符号化の自動化によるテキストの理解度の向上が音読において期待される学習効果であるといえる。音読によってリーディングの語彙処理プロセスを自動化し、意味理解の方に注力できるようになり、テキストの理解度が深まる。

Readingの向上.png

 前述のとおり、単語認知と音韻符号化の自動化による読むスピードが向上すること、また意味理解への注意資源の分配が、テキスト理解の向上に貢献することが音読の意義である。ではなぜそもそも音韻符号化が必要であるのかを述べたい。その理由については文字を見た際に一度、発音を脳内で再生してから意味を理解するという「二重アクセスモデル」という仮説を取り上げて説明したい。以下の図は単語を見てその意味が分かるまでの二重アクセスモデルを示している。

内言化.png

(引用元:門田,2007 単語を見てその意味がわかるまでの二重アクセスモデルを改変)

 門田(2007)によると、テキストを読むとき、単語を知覚してそのスペリングを認知した後、音声化をしないで直接意味の認識に至る『直接経路』と、一旦それを心の中で音声化して、その上で意味を理解する『間接経路』が存在するという二重アクセスモデルがある。そして直接経路よりも、間接経路の方が、より自然な意味のアクセス経路であるとされる。以下染谷の通訳訓練プログラム参照)

文字情報から直接的に意味処理部門にアクセスする「直接経路」は、おもに “sight word” 化した語彙について作動するものと考えられる。”sight word” とは見ただけですぐ意味が理解できる単語である。例)hello, and, of ,etc(使用頻度の高い言語)。sight word化した語彙が多ければ多いほど読みの速度は早くなるが、ある語が sight word 化しているかどうかは、おもにその語に接した頻度が大きく左右する。頻繁に見たり、聞いたり、あるいは使う単語は、それだけ活性化の度合いが高く、その意味処理も「直接経路」を使ってほぼ自動的に(意識的な努力なしに)行なうことが可能だ。

一方、sight word 化していない語彙(数としてはこちらの方が圧倒的に多い)については、いったん音韻符号化した上で意味処理部門にアクセスする「間接経路」を使って処理される。こちらの経路が基本的な語彙処理の経路と捉えて良いだろう。例えばわれわれが母語としている日本語で何かを読む場合においても、無意識のうちに内言読み(頭の中で音を読み上げる)をしているのが普通である。つまり内言化は自動的なプロセスである。これを意識的に抑制するのはかなり困難である。例えば次の文字列のリストを読んでいただきい。

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次に、今度はこのリストをそのまま読むのではなく、それぞれの文字列の色を命名していただきたい。読むほうは簡単でも、命名課題のほうはかなり難しいと感じられるはずである。これは、色の命名課題が、自動的な音韻化現象と干渉を起こしてしまうためである(頭の中では「赤」と見たら自動的に [あか] と内言化しているのに、これを受け消す形で [黄] という音韻を作り出さなければならないため、認知的な負荷がかかる)。このような簡単な実験からもわかるように、通常の読みにおいては「間接経路」がいわゆる「デフォルト」(他に条件がなければごく自然に選ばれる値=選択肢)の処理ルートであると考えられる。なお、心理学ではこのような現象を「ストループ効果」と呼ぶ。

つまり音読における音韻符号化の自動化はこの間接経路の回路を活性化させ、よりスムーズな読みを可能にさせる。

かなりリーディングにおけるメリットを強調したが、音読のリスニングにおける効果は、原文をスピーチのように読み上げることで、原文のプロソディ要素を意識し(音韻分析)、かつ感情を込めて読むことで文の構造や意味を理解しようとし(統語分析、意味分析)、3つの分析能力が高まることが期待される。さらに語彙処理プロセスの自動化を促進することで、よりスムーズな「聴き取り」を可能にする。

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